10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 突然、冬馬さんの美しい顔が目の前にあり驚いた。
 本当に彼は見惚れる程に美しい。
 内面の恐ろしさに気がつくまでに時間が掛かってしまったのもそのせいだ。

「大丈夫です」
 私が笑顔を作り笑い掛けると、彼がまた私になりやら話し始めている。
 聞いているフリをしながら、逃亡計画をまた練り始めた。

(やはり、隙を見て玄関から出たほうが良いかも!)

 玄関を出てもエレベーターが来るのを待っていては、彼に追いつかれる。
 エレベーターに行く側の廊下に履いているパンプスを落として、そちらに行ったと見せかけ非常階段から逃げるのが良いかもしれない。

 52階分も階段を駆け降りるのは大変だろうが、目の前の底知れぬ権力を持ち私に執着する恐ろしい男から逃げられるのならば頑張れる。

 突然、額にひんやりとしたものを感じた。
 気がつくと、冬馬さんが心配そうな顔をして私の額に手を当てている。
「少し、熱がある気がする。今、体温計持ってくるから待ってて」

 冬馬さんが立ち上がり、自分の部屋に行こうとする。
(隙が出来た! 今だ! 逃げろ!)

 私は一目散に玄関まで走った。
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