10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
21.シンデレラは振り返らない
玄関扉を開けると、私はすかさずパンプスを脱ぎエレベーターのある側の廊下に投げた。
(これで、誤魔化せれば良いけど⋯⋯)
 非常階段のある重い鉄の扉を開く。
 どこまでも続きそうな階段に息を飲む。
 なんだか身体に少しだるさを感じるが、両頬を叩いて気合を入れて階段を降り始めた。
 冬馬さんへの恐怖からか、体調が悪いからか体の震えが止まらない。足を踏み外さないように手すりを掴みながら階段を降りる。
 非常階段を降り始めてすぐの踊り場で、階段を登ってきた江夏君と出会す。江夏君は少し汗をかいていて疲れが見えた。

「江夏君、どうして?」
「桜田さんのことが心配で⋯⋯」
 江夏君が私の足元に目線を映し、靴を履いていないことに驚いたのが分かった。中学の時に上履きを捨てられた裸足の私を見て、目を逸らした彼を思い出し暗い気持ちになる。
 気が付くと私は彼に抱き締められていた。
「今度こそ何があっても桜田さんを守り抜くから」
 私は彼の声に自分の震えが止まるのを感じた。
(私、怖かったんだ⋯⋯)
 
 その時、階上より重い扉が開いた音がして、また体が震え出すのが分かった。江夏君が私を抱きしめる力を強める。
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