10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
「桜田さん、体が凄く熱い。熱があるんじゃ?」
 そういえば、冬馬さんも私が熱がありそうだと言っていた。私を騙して弄ぼうとしながら、私の体の心配をする彼は理解不可能だ。

「靴を落としましたよ。シンデレラ」
冷ややかな冬馬さんの声がして、私は体がビクつくのが分かった。
そっと江夏君の腕から覗き見ると、階上に冬馬さんが立っていた。
冬馬さんは私の投げたパンプスを持っていて、彼の瞳は燃えるような怒りで満ちていた。

「冬馬さん⋯⋯」
「どうして、俺から逃げようとするの?」
 冬馬さんの顔が一瞬苦しそうに見えて、私は罪悪感を抱きそうになる。彼と一緒にいた時間で情が芽生えたのかもしれない。


「もう、私の事は放っておいてください」
「俺は未来が好きだから、放っておかない」
 冬馬さんは強い力で、私を江夏君から引き剥がした。
 そして、私の前に跪いて王子様のように靴を履かせてくれる。私をずっと縋るような目つきで見てきて、思わず目線を逸らしてしまった。そんな私を冬馬さんが抱き寄せる。高そうなコロンの香りがして、彼はやはり自分とは住む世界が違うと感じた。
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