10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

「江夏爽太! 北海道行きもなしにして、好きな部屋買ってやるから俺の前から消えろ」
 頭の上から冬馬さんの冷たい声がする。彼は当然のように人の人生を左右する選択を自分ができると思っている。
「城ヶ崎副社長がお望みなら、俺は姿を消します。でも、桜田さんは絶対に貴方には渡しません」
 江夏君の凛とした強い声がする。

「⋯⋯離してください」
 私は思いっきり冬馬さんの胸を押し返した。
 
「未来が好きだから離れたくない」
 冬馬さんが骨が折れそうなくらいに私を抱きしめる力を強める。
その温かさと優しい声色に勘違いしそうになる。

「私が好きなら手放してください」
「好きとか軽い感情じゃないから、心から愛してるから手放せない」
 私を騙していた男の気持ちなど信じられるはずがない。

「そんなこと、好きでもない人からいられても迷惑なだけです。さよなら、冬馬さん」
 私の冷たい言葉に冬馬さんの拘束が一瞬弱まった。
 その隙に私は江夏君とエレベーターホールに行った。後ろから冬馬さんの視線を感じたけれど、私は振り返らなかった。
< 136 / 185 >

この作品をシェア

pagetop