10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
26.好きです!
「冬馬さん!」
 スーツ姿の冬馬さんが右手にマスターキーのようなものを持っているのが見えた。黒服が驚いた顔をしながら、進路を開ける。

『まさか私の婚約者に手を出そうとした訳ではありませんよね?』
『城ヶ崎サンの婚約者? いえ、あの。私はただ彼女とお茶を飲んでいただけで⋯⋯』
 流暢なアラビア語で冬馬さんが語りかけ、アラブの富豪は慌ててズボンを履いていた。

「未来、行こう!」
「冬馬さん!」
 私は冬馬さんが差し出した手をしっかりと掴む。部屋を出て非常階段を上りながら、私は冬馬を傷つけたことを謝りたいと思うが胸が詰まって言葉が出ない。
 鉄の扉を開けるとホテルの屋上のヘリポートに出た。視界を遮るものが何もない星空を背に冬馬さんが心配そうに私を見つめている。私は自分の中に彼への気持ちが残っていることに気がつかされた。彼は遊び人で沢山の女性を泣かせてきて、私も一緒にいたら辛い思いをするかもしれない。
(辛くても良い⋯⋯冬馬さんと一緒にいたい)

 ホテルのヘリポートからヘリに乗ろうとしたところで、後ろから小山内社長の声がした。
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