10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
「大切な妻を拉致されても困るからな」
「妻?」

 ポーカーフェースだった江夏颯太の表情が崩れる。

「今後も妻の未来が危ない時には盾になってくれ」
 命懸けで垢の他人を守れる人間はごく一部だ。おそらく彼は桜田未来限定でなら命を賭ける。
(下手なSPより役に立つ!)

「言われなくてもそうします」
「ただし、未来への恋愛感情は捨ててね」
「それは、自分ではどうにもならないので無理です」
「今度は海外の支店にでも飛ばすように圧力でも掛けようかな」

 俺の言葉を江夏颯太は冗談と受け取ったのか笑っている。

 俺は引き出しから徐に婚姻届を出した。彼は目を丸くして、まじまじとそれを見ている。
「桜田未来、本人の直筆だ。中学の同級生なら分かるだろ」
「いや、直筆かどうかなんて疑ってませんよ。城ヶ崎副社長が私文書偽造するとも思ってません」
「証人欄に署名をしてくれ」
「俺にこの欄に署名しろと? 城ヶ崎副社長、心を抉るような鬼畜な判断に言葉が出ません」
 
 俺はガタガタ言っている、彼にボールペンを渡しもう一度署名するように促す。
「口を動かす必要はない。手を動かせ」
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