10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 冬馬さんが私をそっと抱き寄せて額にキスをし、愛おしくてたまらないとばかりに強く抱きしめてくる。その温もりに昨晩のように何もかもどうでも良くなる感覚に陥りそうになった。私は三秒目を瞑り、冷静に状況を客観的に精査する事にした。
 
「初めてなのに変ですよね。冬馬さん、まさか私が意識がない時に既に⋯⋯」
 私は問い正しながら、私は彼をまだ信用し切っていないのだと自覚した。
「流石にそんなクズじゃないよ。未来の才能と、俺の愛と技術が素晴らしかっただけ!」
「本当ですか? 私の記憶がない期間に何かしてませんか?」
「し、信用を得られるように、これからも努力し続けるよ⋯⋯」
 私の言葉に冬馬さんは何かを思い出したのか、一歩引いてワタワタし始める。
(怪しい⋯⋯)

「何ですか? 正直に言ってください。私も夫を信じる妻になれるよう努力しますから」
 冬馬さんは私の怪しむ視線に観念して恐る恐る口を開いた。

「医者のフリをして、未来の上着を脱がせて内診しようとしたことは⋯⋯あるかな」
 私は彼の発言に首を傾けてしまった。彼は私を縋るような目つきで見つめてくる。
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