10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
5.会いたくなかった2人
冬馬さんは頭を掻きながら私たちの出会いについて語り出した。

「この部屋に3月末に引っ越してきた話はしたよね? 実は、その時に引っ越し屋のバイトとしてここに来た未来を見て、俺が一目惚れして⋯⋯」
 私は彼が言い終わらない内に居た堪れなくなった。

「最低ですね⋯⋯」
「えっ? 未来⋯⋯何か思い出したんじゃ」
 私は苦しそうな顔をした彼にゆっくりと首を振った。

 私は仕事中に彼に声を掛けられ舞い上がったのだろう。

 冬馬さんのような素敵な方は私の人生で初めて見る。
 それでも、仕事中ならば自分の業務に集中すべきだし、お客様はお客様として見るべきで恋愛感情を抱くなど決して許される事ではない。


「自分の軽薄さに呆れたんです。本当にお恥ずかしい限りです。実は情けない事に10年も引きこもっていました。穴倉から出て来て、太陽のように光り輝く冬馬さんを見てお声を掛けて頂き舞い上がったんだと思います」

「えっ? いや、俺が一方的に言い寄っただけだから」
 誰もが惹かれそうな魅力的な彼が、私のような何もない女にそんな感情を抱く訳がない。

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