10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 屈むたびに背中に刺青があるのが見える。
 髪の毛もかなり明るく染めていて見た目がチンピラみたいだ。

「テキパキ動けよ。まじ、使えねえな。お前!」
 澤田に冷ややかな声で注意される。

 はっきり言って彼はカタギの人間には見えない。
 それなのに、大手引っ越し会社の正社員になれている。
 私は自分の空白の10年を情け無く思い、ため息をついた。

 最上階の52階の部屋に着くと、気だるそうな黒髪の男がスマートフォンを弄りながら私たちを見ていた。彼がこの部屋の主になる城ヶ崎冬馬だ。身長も高くてすらっとしていて精悍な顔立ちをしている。お金もあってルックスも良いなんて随分と恵まれた方だ。

「養生を済ませましたので、只今より荷物を運び入れます」
 澤田の声かけに顔も上げずに城ヶ崎が頷く。


「4人しかいないの? タワマは基本作業員5人だって聞いてたけれど?」
「すみません。繁忙期ですので」
 澤田は城ヶ崎さんの言葉に貼り付けたような笑顔で頭を下げる。
 ふと、澤田の持っている引っ越しの契約の控えを見ると作業人数は5人とあった。
「あの⋯⋯作業人数5人分で料金頂いてるんじゃ⋯⋯」
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