10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 自然と漏れた私の言葉に冬馬さんが顔を真っ赤にした。

「えっ? 何、誰なの?」
 鈴村楓の声が聞こえて気分が悪くなり胸を抑える。
 そんな私を慰めるように冬馬さんはコメカミにキスをしてくれた。

「城ヶ崎グループの『ブルーミング』の城ヶ崎冬馬副社長だよ。鈴村、お前、モデルなのに知らないのかよ」
 江夏爽太が鈴村楓に小声で耳打ちする声を耳が良い私は拾ってしまった。
城ヶ崎グループといえば旧財閥の名家で、『ブルーミング』といえば私でも知っている業界最大手のアパレルブランドだ。


「初めまして、城ヶ崎様。私、モデルをしてます鈴村楓と申します」
 先程までのやり取りがまるでなかったかのように、優雅に気取った感じで鈴村楓が挨拶をする。切り替えが早く空気を読むのがうまい。私のように融通の効かない堅物とは真逆の女だ。

「お前の名前なんて興味ないけど、教えてありがとう。俺の女を侮辱したんだから、当然この業界にいられないようにするから覚悟してろよ」

 冬馬さんはそう鈴村楓に言い放つと、私の持っていた買い物袋を掻っ攫う。

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