10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 後ろを見ると隣の部屋で城ヶ崎さんは何処かに電話を掛けていた。


「弁償は会社持ちですよね。報告義務があるかと⋯⋯」
「うるせえんだよ。バイトの癖に。俺が怒られるだろうが!」

 私は澤田から今度は腹パンをされて蹲った。
 私が間違っているんだろうか。
 中学時代のイジメの発端も、部活帰りに買い食いしていた鈴村楓たちを目撃して先生に報告したからだった。

 でも、私は見過ごせない。
 ちょうど、城ヶ崎さんが電話を切ってこちらを見ていた。私は彼に駆け寄った。
「照明を一部破損してしまいました。弁償させて頂くのにお時間頂けるでしょうか?」

 頭を下げた私の上から冷ややかな声がした。

「弁償? 簡単に言うね。それ、デザイナーにオーダーメイドした一点ものの照明なんだけど」
 
「城ヶ崎様、失礼致します。バイトがなんだか勘違いしているようです。こちらの照明ですが、元々破損箇所があったようです。出発地の作業員の確認が疎かだったようで、報告漏れですね」
 淡々と嘘を吐く澤田にゾッとした。平気で自分を守る為に真実を捻じ曲げる人間。10年経っても外の世界は悪意で満ちていた。

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