10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 やっと見つけた愛おしい人が苦しんでいるのは全て俺のせいだ。
 
 
「本当にごめんな。未来」
 彼女の頬に手を当てながら謝る。
 俺のせいで刺された彼女を騙し、好きになったからと嘘をついたまま結婚までしようとしている。
 目の前の澄んだ瞳の清廉潔白な女が、記憶を取り戻して俺を許すはずがない。
 それが分かっているから後戻りのできないところまで関係を進めてしまおうとした。
 つい先日まで意識のなかった彼女を労るような気持ちを忘れていた。

「なんで、冬馬さんが謝るんですか? 美し過ぎてストーカー被害に会ってごめんなさいって事ですか? 人を好きになるのって、時に乱暴な感情を生み出すんですね。それは、冬馬さんのせいではありませんよ」
 俺を元気づけるように明るい声を無理して出している彼女を誰にも渡したくないと思った。
 笹倉絵馬が自分のものにならないなら死んで欲しいという感情と似た感情を俺も彼女に抱いていた。
 乱暴で身勝手な狂気のような感情だ。

「退院は3日後だよな。ずっとついていてあげられなくてごめん」
 ファッションウィークなので分刻みのスケジュールで忙しい。
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