10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 ワーカホリックの俺が仕事に行きたくないなんて思う日が来るなんて夢にも思わなかった。

「何、言ってるんですか? お仕事最優先でお願いします。私よりも冬馬さんを必要としている人たちが待ってますよ」

 くすくす笑いながら、彼女がいう言葉に引っ掛かりを覚える。
 
 頭の中で愛の天秤が傾く音を感じた。
 俺の方が彼女を好き過ぎて、彼女がそうでもない状況が寂しい。

「いやっ、俺がずっと未来と一緒にいたいんだけどな⋯⋯」
 彼女が何気なく言った言葉に想像以上に傷ついていて、言葉が続かない。
 俺は誰より彼女を必要としているのに、彼女はそうではないということだ。
 
 その後は、たわいもない会話をして面会時間が終わるまで病室で過ごした。

 3日間はできるだけ時間を作って彼女の元に顔を出した。
 俺に心配をかけまいと青い顔をしながらも、明るく振る舞う彼女が健気で胸が締め付けられる。

 彼女が退院する日、仕事を早めに切り上げて一度部屋に戻る。
 スーツから普段着に着替えて、マンションのエントランスロビーまで行ったところで予想外の人物と出会した。

「城ヶ崎さん!」
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