10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 ちょうど、その時に手術中という赤いライトの点灯が消えた。

 ストレッチャーに乗せられた江夏君が出てくるが、私を見るなり手をひらひら振ってくれている。
「江夏君? 大丈夫」
 私が駆け寄ると、江夏君が微笑み返してくれる。

「全然、大丈夫! なんか、思ったより血が出て意識失いかけてたみたいだね。桜田さんにも心配かけちゃったみたいでごめんね」
 彼が手を伸ばして私の頬の涙の跡に触れてきた。
 その姿を医者や看護師さんたちが微笑ましそうに見ている。

 江夏君は一時的な出血多量により意識が朦朧としたが傷は深いものではないらしい。明日、念の為の検査をするので1日だけ入院することになった。

 ちょうど感染症が流行っていて、個室の病室しか空いていなくて私は江夏君と2人きりになった。
 ベッドサイドの小さなパイプ椅子に座って、ベッドに腰掛けている彼と向き合う。
 こんなに真っ直ぐに彼が私を見てくるのは、彼に告白されて私が振った中学2年生の秋の日以来だ。
 
 私は抱えていた彼の黒いビジネスバッグをサイドテーブルに置く。

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