🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
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「フィンランドへの送電を停止するという発表がありました」
 芯賀は13日の報道メモを総理に手渡した。
「NATOへ加盟申請することへの報復だろうな」
 総理はメモを一瞥(いちべつ)しただけで芯賀に戻した。
「そうだと思いますが、大きな影響はないみたいですね。ロシアから輸入している電力量は全体の10パーセントくらいなので緊迫した状態にはならないようです」
「まあ、そうだろうな。ドイツの天然ガスとはわけが違うから大きな問題にはならないだろう。それよりも、核兵器の配備の方が深刻だろう」
「確かにそうですね。前大統領のメドベージェフがスカンディナビア半島方面の国境付近に核兵器を配備すると脅していましたから、それをやられると脅威は一気に増しますね」
「ウクライナを核で脅して、今度はフィンランドとデンマークにも脅しをかける、これが常任理事国のすることかね」
 眉間に皺を寄せた総理に向かって感情を出さずに頷きを返した芯賀だったが、胸の内ではムカムカが収まらなかった。
 核で脅せば誰もがひれ伏すと思い込んでいるバカ者たちを一喝したくなった。
 しかし、聞く耳を持たない非常識な人間に何を言っても無駄なことはわかっていた。
「とにかく、ロシアがウクライナに勝つことだけは阻止しなくてはならない」
 首席補佐官を呼ぶようにと言って、総理は口を真一文字に結んだ。

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