🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
 救急サイレンが止むと共に車が停まった。
 病院に到着したようだ。
 しかし、そこは病院と言える代物ではなかった。
 物は整理されておらず、玄関や廊下にまでベッドが置かれて雑然としていた。
 それに、医師や看護師が走り回っていた。
 医療関係者の数が足りないのだろう。
 彼らの緊迫した様子を見ていると、まるで戦場のように思えた。
 
 ミハイルの傷は深そうだった。
 縫合(ほうごう)が必要だと英語が話せる医者に言われた。
 しかし、手術室が空いていなかった。
 負傷者が続々と運び込まれていて4人が待機状態だというのだ。
 一刻も早く縫合手術をして欲しかったが、待つ以外選択肢はなかった。
 
 夕方になってやっと順番が回ってきた。
 ミハイルはかなり憔悴(しょうすい)しているようだった。
 出血は完全には止まらず包帯を赤く染めていたから無理もなかった。
 ミハイルに声をかけて見送った倭生那だったが、落ち着かなかった。
 この設備でこの陣容で手術が成功する確率が高いとは思えなかったからだ。
 しかし、できることは祈ることしかなかった。

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