🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
 気合を入れてミハイルの元に戻ったが、彼の状態は良くなかった。
 顔色が優れないのだ。
 おでこに手を当てると熱があるし、目を瞑った彼は間隔の短い浅い息をしている。
 抗生物質が効いていないのかもしれないと思い、すぐに医師の元へ急いだ。
 
「う~ん」
 ミハイルを診察した医師は顔を歪めた。
 感染症の可能性があるらしい。
 しかし、菌を同定する検査ができない上に抗生剤の在庫が乏しいので最適な抗生剤を投与することは困難だと首を振った。
 
「きちんと治療できる病院を紹介してください」
 この病院以外に対応できるところはないと聞いてはいたが、それでもすがるような思いで詰め寄った。
 しかし、医師は首を振るばかりだった。
「多くの病院が破壊され、医療関係者も殺されています」
 医師の隣にいる看護師が辛そうな声を出した。
 助けたくても助けられない現実に直面している彼女の顔が歪んだ。
 それを見て、もうこれ以上彼らにすがることはできないと悟った。
 状況は日に日に悪くなっているのだ。
 それに、ミハイルよりももっと重症な人が少なからずいることを認めざるを得なかった。
「わかりました。トルコに連れて帰ります」
 ない袖は振れないと言う医師をなんとか口説き落として抗生剤を3日分処方してもらったあと、ミハイルを車に運び込んだ。
 そして、水と食料を少しでもいいから分けてもらえないかと看護師に懇願した。
 しかし、良い返事はもらえなかった。
 ギリギリで回しているので余分なものは何も無いという。
 それでも手を合わせて頼むと、困惑した表情のままどこかへ向かった。

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