🕊 平和の子 、ミール 🕊 【新編集版】
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 会合の日がやってきた。
 会場には日本を代表する一流企業のエリートたちが集まっていた。
 鉄道、車両、建設、鉄鋼、電線、機械、運輸、船舶など、軌道変更や穀物輸送に関わる企業が揃っていた。
 それだけでなく、政府系金融機関の職員まで出席していた。
 それは、政府を巻き込むことを前提としていることを意味していた。
 
 進行役を務める同期に促されて壇上に立った。
 緊張してちょっと声が震えたが、オデーサでミサイル攻撃を目の当たりにしたこと、その危険な場所で妻が活動していること、現地では穀物が出荷できないため困り果てていること、鉄道で代替しようにもEUと軌道が違うので簡単にはいかないこと、更に、輸出ができないためにアフリカや中東の国々で食糧事情が急速に悪化していることを説明した。
 その後、いくつかの質問があり、更に詳しい状況説明をしたあと、同期に引き継いだ。
 
「一世一代の挑戦になります。ビジネスチャンスというだけではなく、極めて意義のある貢献になるのです。しかし、戦争の終結時期は見通せず、いつから取り掛かれるのか、必要な資金はどれほどなのかなど、事業化に向けて必要とされる情報はほとんどないと言っても過言ではありません。それでもやる価値は高いと確信します。悪意によって踏みにじられたウクライナを救うことは新たな秩序を作り上げることに他ならないからです。そう思いませんか」
 そして彼は参加者を見回してからキメの言葉を発した。
「これは単なる復興に向けた取り組みではなく、悲痛な叫び声をあげ続けているウクライナの人々に夢と希望を与える『光明(こうみょう)プロジェクト』なのです」

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