🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
「プーチンは焦っていますね」
 芯賀の発言に総理が頷いた。
「そうだな。東部と南部の劣勢が伝えられているし、これ以上の反撃にあったら4州の併合が難しくなるから必死なのだろうな」
 27日にも終了するといわれている東南部4州の住民投票によってロシアへの編入を狙うプーチンは戦線維持に躍起になっているに違いなかった。
「ウクライナ軍による州都へルソンへの南下とハリコフ州での東進が予想以上に進んでいますから、ロシア軍は防戦一方のようですね」
「ああ、そうだな。ウクライナ軍の防空システムによってロシア空軍の動きが封じ込められているからこの流れが途絶えることはないだろう」
 今後アメリカやドイツから新型の地対空ミサイルが提供されることになっており、ウクライナ軍の優位は続くとみられている。
「それにしてもロシア国内の混乱は収まりそうにないですね」
 独立系新聞によって『100万人の予備役を動員することが可能』という内部文書をすっぱ抜かれた結果、国内39都市で大規模なデモが発生し、それを取り締まる治安部隊との衝突が起こって1,400人が拘束されるという異常な事態になっていた。
「対象ではない学生や高齢者にまで出頭命令書が届いているようだから、それによって更に国民の怒りが増しているんだろうな」
 中央政府の指示が末端にまで行き届かず、地方政府に割り当てあてられた予備役数が独り歩きした結果、対象外の人まで徴集されているのだ。
「デモで拘束した人にも令状が渡されていますし、基準があってないに等しい状態になっているようです」
 そんな中、『腕を折る方法』の検索が急増するなど、召集忌避(忌避)の風潮が拡散している。
「さて、今度どうなっていくのか見ものだな」
 内部崩壊を期待する総理の声に大きく頷いた芯賀は、それが実現することを強く願ってウクライナの方角に視線を向けた。

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