🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
 10月19日、プーチンが戒厳令を敷くと表明した。
 該当する地域は一方的に併合した東部と南部の4州だったが、ロシア全土に対しても警戒態勢を強める大統領令を発した。
 ウクライナによる後方かく乱工作やデモなどの国民の反発に危機感を強めたためだった。それは事実上の戦時体制移行を意味していた。
「戒厳令となると軍に権限が集中することになりますので、外出禁止や通信の規制、民間施設の接収などが容易に行われるようになります」
「そうだな。追い詰められたプーチンが過激な方向に走り出すのは間違いないだろうな」
 総理は目の前の芯賀を見ることもなく机上(きじょう)のプーチンの写真を睨みつけていた。
 顎の下で両手を組んで厳しい視線を前に向けている写真だった。
「これで4州に住むウクライナ住民を強制的にロシア軍に動員することも可能になりますから、住民の間ではパニックが起こっているのではないでしょうか」
 ただでさえ常軌を逸した行為を繰り返しているロシア軍が更なる圧力をかけることが目に浮かんだのか、総理の表情が一気に曇った。
「たまらんな……」
 重苦しい声を発した総理は、拳を握ったまま目を瞑って動かなくなった。

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