🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
「ロシアに武器を供与している疑いが強まったようです」
 芯賀が北朝鮮の情報を伝えると、総理の顔が一気に歪んだ。
 前々からその噂はあったが、アメリカの研究グループによる衛星写真でロシア国境を超える北朝鮮の列車の存在が確認されたことに衝撃を受けているようだった。
「その画像からは何を運搬しているのか確認できませんが、ホワイトハウスの戦略広報調整官が『北朝鮮が大量の砲弾をロシアに密かに供与している情報がある』と述べたことに注目しているようで、運行目的を更に注視しているようです」
 北朝鮮からロシアに向かう列車は新型コロナウイルスの影響で一昨年から運航を停止していたが、ここにきて再開したのはなんらかの意図があると思わざるを得ないという。
「もちろん北朝鮮は武器輸出を否定していますが、それをまともに受け取るわけにはいかないと思います。北朝鮮にあるロシア大使館の話として紹介されたものに『ロシアは北朝鮮から衣類や靴などの商品を購入することに非常に関心を持っている』というのがありますが、これが本当のことだとはどうしても思えません」
 確かに1980年代から90年代にかけて北朝鮮から輸入していた実績はあるが、今更それを持ち出すのは不可解としか言いようがなかった。
「そうだな。ロシアや北朝鮮が正直に本当のことを言うとはとても思えないから、偽装工作の可能性が高いとみていいかもしれないな」
「はい、そう思います。今後の情報を注視しなければなりませんが、実際に北朝鮮がロシアに武器輸出を始めたとなると厄介(やっかい)なことになりそうです」
 ロシアとイランと北朝鮮が結びついた新たな『悪の枢軸(すうじく)』とも呼べる存在は脅威そのものでしかなかった。
「泥沼にはまっていかなければいいが……」
 3両編成の列車が国境の橋を渡る写真に視線を向けた総理を見ながら、芯賀の胸の内には嫌な予感が渦巻き始めていた。

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