🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
 その夜、不曲は大使や首席補佐官と共に国連安保理の会議に出席している夢を見た。
 それは北朝鮮のミサイル発射に関する緊急会合だった。
 アメリカが発射を強く非難し、北朝鮮への制裁を強化する決議案を提出する構えを見せたのに対し、予想通り中国やロシアはそれに反対して直接対話を重視すべきだと主張した。
 対立する中、G7に近い非常任理事国の議長が口を開いた。
 
「今回の発射は完全なる安保理決議違反です。
 これを許すわけにはいきません。
 それなのに、なぜ中国とロシアは制裁を緩和すべきと主張されるのですか。
 何故北朝鮮を甘やかすのですか。
 どうしても私には理解できません」
 
 すると、中国大使が反論を始めた。
「北朝鮮は長年にわたり制裁を受けてきました。
 それを彼らは安全保障上の脅威と見なしています。
 ですから、制裁を強化すればするほど態度を硬化させるのです。
 ここで少し話を変えてイソップの寓話(ぐうわ)に触れたいと思います。
『北風と太陽』というのがあるのを皆さんはよくご存じだと思います。いくら強く風を吹かせても旅人は着物を脱ぎませんが、太陽が暖かく照らすとあっけなく着物を脱ぐというお話です。
 (しま)いには素っ裸にまでなってしまうというオチまで付いています。
 これは何を意味しているでしょうか? 
 もうおわかりですね。
 (かたく)なな態度に対しては制裁よりも支援が効果的なのです。
 つまり、北朝鮮への制裁強化は百害あって一利なしなのです。
 ですので、制裁より対話が必要だと申しているのです。
 こんな簡単なことをご理解いただけないこと自体、私には理解できません」
 してやったりというような表情を浮かべて中国大使が発言を終えると、それを待っていたかのようにロシア大使が口を開いた。

< 27 / 230 >

この作品をシェア

pagetop