🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
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「中国に続いてインドか……」
 ラヴロフ外相がインドを訪問したことを芯賀が報告すると、総理は悩ましげに首を振った。
「経済的、軍事的な協力関係を話し合ったようです」
 芯賀は外相会談の概要を記したメモを総理に渡した。
 そこには『われわれは欧米の一方的な制裁による障壁を克服できるだろう。軍事協力についても間違いなく解決策を見つけられる』というラヴロフのコメントがあった。
「インドは歴史的な友好国だからな」
 ロシアに対して直接的な非難をせず、経済制裁にも慎重な立場を取るインドにすがろうとするラヴロフの意図が見え見えのコメントだった。
「インドにとって最大の武器供給元がロシアですからね」
 インド軍の武器の60パーセントがロシア製と言われており、最近も米国の反対を押し切ってロシア製の地対空ミサイルを購入したばかりだった。
「対パキスタンを考えると、この傾向は今後も続くでしょうね」
 中国がパキスタンへミサイルを提供して開発を支援している現状では、安価で使いやすいロシアのミサイルを購入し続けなければならないという事情があるのだ。
「ああ、複雑な関係だからな」
 インドとロシア、インドと中国、インドとパキスタン、パキスタンと中国、中国とロシア、複雑に絡み合う利害関係を読み解くのは簡単ではない。
 しかし、この絡み合う糸がどういう未来を導くのか、芯賀の関心は最近とみに高くなっている。
「中国とインドが抜け道になれば経済制裁の効果が減退してしまうことになりますが、会談後のインド側のコメントを見ると、若干の期待を持つことができるかもしれません」
 芯賀はそのコメントを読み上げた。
『外相は暴力と敵対行為の停止の重要性を強調した。意見の違いや争いは外交と対話によって解決すべきだと述べた』
 それは、これまでの主張を繰り返したものだったが、ロシアが期待した協力関係に触れる文言は一つもなかった。
「まあ、インドも国際世論を敵に回すわけにはいかないからな」
「確かにそうだと思います。表立った支援はやらないでしょうね」
 総理は頷いたが、新たな質問を繰り出した。
「アメリカはどう動いている?」
 それに対する準備はできていた。
 新たなメモを総理に渡した。

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