🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
「しっかり手を打っているようですね。大統領副補佐官のシン氏をインドに送り込んだようです」
 ラヴロフが訪れた同じ日にインドの商工相や外務省幹部と会談を行い、ロシアに対する制裁の目標と仕組みを協議したと伝えられている。
 更に、食糧やエネルギー供給での協力も話し合ったようだ。
 もちろん、インド太平洋戦略に基づいたものである。
「生産的な対話が行われたようですし、協議も継続されるようです」
「なるほど。したたかにやっているわけだ。それに派遣したのがシン氏というのが見事だ」
 ニューヨーク連邦準備銀行の市場グループ責任者であったシン氏は、現在国家安全保障担当の副補佐官を務めており、過去にはオバマ政権下の財務省で金融市場や国際問題を担当していた。
 もちろん、その名前からインド系であることは容易に察することができる。
「北朝鮮担当特別代表に韓国系のソン・キム氏を選んだ時もなるほどと感心しましたが、今度も機を見るに敏の対応でしたね」
 総理は〈その通りだ〉というように深く頷いたが、それは、浮き彫りになった日本の課題を認めることと同じだった。
「日本政府にも、もっと多様性が必要だな」
 画一化から抜け出せない閣僚や官僚の顔を思い浮かべているのだろう。
 もしかしたら内閣改造とスタッフの入れ替えに思いを馳せているのかもしれない。
 そう察した芯賀は「島国で、かつ、単一民族という特徴が負の遺産とならないようにしないといけないですね」と応じたが、総理はそれに答えず、「クアッド(QUAD)を……」と呟いただけだった。
 芯賀はその呟きの意味がわからなかったが、翌日、それを理解することになった。

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