🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
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 新型コロナの濃厚接触者となった法務大臣に代わって急遽派遣した外務大臣がウクライナの隣国ポーランドで精力的に活動を行っていた。
 その目的は現地のニーズ把握と難民受け入れ支援だった。
 それも現地支援だけでなく、帰国時に希望者を政府専用機で日本に運ぶということまで想定していた。
 今までにない対応を考えていたのだ。
「20人ほどになりそうです」
 電話に接続されたスピーカーから聞こえてきた外相の声は普段より明らかに高揚していた。
『困難に直面するウクライナとの更なる連帯を示すために、政府一丸となって必要な支援を行っていく』という強い決意をもって出発した心意気が現れているような声だった。
「そうか。で、現地の様子はどうだ?」
「予想した通り、大変な状況になっています。1つの施設に2,500人ほどの避難民が身を寄せており、足の踏み場もないほどの状態になっています」
「そうだろうな。ポーランドには240万人が避難しているようだから、これ以上の受け入れは困難だろうな」
「そう思います。もう限界だと思います。それに、避難したものの生活の基盤が作れるかどうか不安を覚えてウクライナに帰る人も出始めていて、状況は複雑になっています」
「なるほど。言葉が通じない上に働くところが見つからなければ危険を承知で戻る人も出てくるんだろうな」
 総理の鼻から深い息が漏れた。
「とにかく、できる限りのことをするつもりです。それと、明日は国境付近を見てまいりますので、またその状況について報告いたします」
「よろしく頼む。ただ、くれぐれも安全には気をつけて行動するように」
「承知いたしました」
 報告を聞き終えた総理は、難民支援の最新状況について芯賀に問いただした。
「はい。受け入れた避難民は現在393人で、今後ますます増加する見通しです」
 日本にはウクライナ人が1,900人ほど居住しており、その親族らの来日ニーズが高まることを予想していた。
「受け入れ態勢は整っているのか」
「はい。各自治体が協力してくれています」
 東京都は都営住宅を700戸確保しており、入居前にはホテルを無償提供して、そこで希望を聞いた上で寝具や家電製品を準備することまで考えているとの報告を受けていた。
「但し、入居期間は最長で1年しか想定されておりませんので、滞在が長期に渡ることになれば色々と問題が出てくると思われます」
「そうだろうな。避難民を受け入れた経験が無いに等しいから、一つ一つ課題を克服するしかないだろうな」
「はい。言葉の問題、生活費の問題、生活環境の問題、仕事の問題、学校の問題など、考えていかなければならないことは山ほどありそうです」
 総理は頷きながら、ポーランドの対応をよく調べておくようにと指示を出した。

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