🕊 平和の子 、ミール🕊  ~新編集版~
「これでよろしいでしょうか」
 戻ってきた芯賀は2通の原稿を総理に手渡した。
 1通は日本語、もう1通はハンガリー語だった。
 そこには、『この度、閣下が率いられるフィデス・ハンガリー市民連盟が勝利されたことに心からお祝い申し上げます。今般の選挙によって閣下が続けて首相を務められることは、貴国の安定と地域及び世界の平和にとって不可欠な礎になることは疑うべくもありません。今後も閣下のリーダーシップの下、貴国の安定と繁栄がもたらされることを心から祈念しております。と共に、自由と民主主義が尊重され、人権が守られ、大義も正義もない武力行使を認めず、大国の横暴に毅然(きぜん)として立ち向かわれる(りん)とした国家であり続けられることを心から願うものであります。今後も我が国は貴国の友人として、ヨーロッパ並びに世界の平和に貢献される努力を積極的に支えていきたいと考えておりますし、早期にお目にかかれることを楽しみにしております』と記されていた。
 
「これでいいだろう」
 修正の指示がなかったのでホッとしたが、そのせいか本音がポロっと出てしまった。
「少しでも彼の琴線(きんせん)に触れてくれればいいのですが」
 その可能性が少ないことはわかっているというように総理は少し顔を歪めたが、しかし口から出た言葉は信念に基づいたものだった。
「そう願っている。しかし、例え今回琴線に触れられなくとも努力を諦めてはならない。やり続ければ必ず彼の心を動かせると信じて継続するのだ」
「承知いたしました」
 口元を引き締めた芯賀は打電の準備のために急いで部屋をあとにした。


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