🕊 平和の子 、ミール 🕊 【新編集版】
        行  方 

          1

 サケ・マス交渉が4月25日に正式に妥結したのを見届けて仕事面のストレスが無くなった倭生那は、予定通りトルコのイスタンブールへ向かった。

 機内では映画も観ず、音楽も聴かなかった。
 といって眠ることもできず、ただひたすらナターシャのことを考え続けた。
 しかし、未だに家を出て行った理由がわからなかった。
 ヒントすら思い浮かばなかった。
 それでも考え続けたが、頭の中で疑問の輪がぐるぐると回るばかりで、どこにもたどり着くことはなかった。
 
 気流の影響で予定よりも遅れてイスタンブールに着いた時は疲れ果てていた。
 しかし、なんとか心に(むち)を入れて今後の行動に意識を集中させた。
 
 空港からタクシーに乗って向かったのは知人から紹介された大手の私立探偵事務所だった。
 現地で幅広い情報網を持ち、警察とも太いパイプを持つと言われているので、万が一、妻がトルコから出国している場合でも捜索の糸を切らさないでいられるのではないかと勧められた事務所だった。
 
 知人が太鼓判を押しただけあって、すぐに報告書が上がってきた。
 しかし、アイラの自宅にも勤務先にも妻がいる気配はないという。
 誰かと行動する姿も単独で行動する姿も見つけられなかったという。
 もちろん、友人宅でじっとしている可能性もあるのでトルコにいないとは断定できないが、病気でもない限りまったく外出しないのはおかしいという。
 
 それはそうだと思った。
 探偵が張り込んだ2日間は快晴だったのだ。
 じっとなどしているわけがない。
 しかし考えても埒が明かないので、事務所の勧めに従ってアイラに会うことにした。

< 92 / 230 >

この作品をシェア

pagetop