異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!

35. 怪我

 何か作戦があるわけでもない。
 何か武器があるわけでもない。
 何か特別な技があるわけでもない。

 無意識に飛び出したミサキはルイスの頭を抱え込んだ。

「ミ……」
 ミサキの名を呼ぶ前にドラゴンの鋭い爪がミサキの背中に傷をつける。

 あぁ、私、馬鹿だな。
 今更しみじみそう思う所がまた馬鹿過ぎるとミサキは苦笑した。

「ミサキ!」
 共鳴する剣。
 治ったルイスの怪我。
 背中を大きく怪我したミサキ。

 ルイスは目を見開きミサキを支えた。
 ミサキの背中に置いた手には血がべったりとつく。

「うっ、」
「ミサキ!」
 かろうじて意識があるミサキはルイスから離れると辛そうな顔で笑った。
 ビルが駆け寄り、ガイルと二人でミサキを支える。

『ミサキを頼む』
 ルイスは聖剣を握りなおすと深呼吸をした。

 ミサキだけをレオの所になんて、弱気な事を言ったせいで怪我をさせた。
 ルイスは奥歯をギリッと噛み締める。

 ドラゴンを倒して水を戻すために来たのに、ドラゴンの気迫に押されて情けない事を言った。
 迷ったせいで、弱い心のせいで。
 守るべきミサキに逆に守られてしまった。

 男としても騎士としても情けない。

 ドラゴンの急所は首。
 聖剣で突き刺すのみ。

 ルイスは聖剣を頭の上に構えた。

 騎士団長に習ったのに冷静さを欠き、空を飛ぶドラゴンに圧倒され、大切な女に怪我をさせた。

 ドラゴンを倒す。
 全員で王都に帰る。

 ただそれだけだ。

 上空で向きを変え、ルイスに襲いかかるドラゴン。
 スローでドラゴンの動きが見える。
 ルイスは聖剣の角度を微調整し、ドラゴンに一撃を加えた。
< 103 / 131 >

この作品をシェア

pagetop