異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!
 冒険者用ではなく、街の娘が着る女性の服の店へ行き、背中ボタンの服を数着購入。
 髪が傷に触れないようにリボンで縛ろうと思ったがシュシュが良いと店員に言われ勧められるまま買った。
 
 服が小さいので子供だと思ったのだろう。
 シルバーウルフのぬいぐるみが大人気だと言われ、気にいるかわからないが買った。
 食べられないかもしれないが甘いクッキーと、ドライフルーツも。

「ルイの趣味か?」
 シルバーウルフよりフェンリルの方が人気じゃないのか? と笑うディーを横目に、ルイスはミサキの顔の横にぬいぐるみを置いた。

 医師免許を持つビルが茶色の粘り気のある薬草を塗り直しているとミサキの黒い眼がゆっくりと開く。

「ミサキ、大丈夫?」
『……すごく痛い。背中と肩。どうなってるの?』
 ビルがミサキの背中にガーゼを乗せながら尋ねたが、ミサキの返事は聞き取れなかった。
 
 困ったビルの顔を見たミサキは、やっと言葉が通じない事を思い出す。
 最近なんとなくわかる言葉が増えてきたが、日常の単語レベルだった。

 ビルがサラシを見せるとミサキは頷く。

 怪我した時に着ていた服を脱がし、ルイスが買ってきた背中ボタンの服に替える。
 サラシを巻く間、ミサキから何度もうめき声が上がった。
 ルイスは心の中で謝罪しながら着替えさせ、髪をシュシュで括り、ぬいぐるみを置く。

「……何?」
「シルバーウルフ」
「……可愛い」
 ふわふわの毛が気持ちいいぬいぐるみにミサキが微笑む。

「クッキー、りんご、水」
「水」
 うつ伏せのミサキにスプーンで少しずつ水を飲ませる。
 小さく切ったりんごを食べさせ、ドライフルーツも口に入れた。

「ありがとう、ルイス」
 またすぐに眠ってしまうミサキ。
 
 ルイスはずっとミサキの側で看病を続けた。
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