異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!

41. 騎士団長

『ルイス殿下、この度は制勝おめでとうございます』
 ルイスの前で跪くディーの父である第一騎士団長。
 ルイスがスッと手を出すと、その手を合図に騎士団長は立ち上がった。

 騎士団長はソファーに座るミサキの元へやってくると、今度はミサキに跪いた。

『お初にお目にかかります。この度はこの国をお救い下さりありがとうございます、聖女様』
「ドラゴン。ありがとう」
 って言ってるよとディーが通訳すると、ミサキは「は、はいっ」と返事をした。

 ゆっくりと立ち上がるおじさまはなんとなくディーに似ている。
 もしかしてディーのお父さん?

 挨拶が終わると、たくさんの食材が運ばれてくる。
 料理人のような白い服の男性はキッチンに立ち、食事の準備を始めた。

 柔らかいお肉、温かいスープ。
 卵焼きも美味しい。
 楽しそうに食事をするミサキを切なそうな顔で眺めるルイスを騎士団長は笑った。

「そんな顔もなさるとは」
「……第二王子が娶るのはよくないとはわかっているが、諦めたくない時はどうすればいい?」
 5歳の頃から世話になっている二人目の父だと言っても過言ではない騎士団長にルイスが尋ねると、騎士団長は豪快に笑った。

「手に入れればよろしいでしょう」
 何を悩んでいるんです? と笑う騎士団長。

「今まで、幼い頃からずっと我慢されてきたのです。英雄となられた今、願いを口にされずにいつなさるつもりですか」
 国王陛下付きの第一騎士団でさえ根を上げる鍛錬に参加し、ドラゴンまで倒してしまったルイス。
 あの時何があったかはディーからすべて聞いた。
 罪悪感から娶りたいと言っているのならば止めようと思ったが、この表情を見れば違うと誰が見てもすぐにわかる。
 
 子供の頃から常に第一王子レオナルドに遠慮し、彼の顔を立ててきたルイス。
 本当は勉強も周りへの気配りも状況判断も、ルイスの方が優れているのに。
 良からぬことを考える貴族が出ないように、第一王子レオナルドが常に自分より上であると公言されてきた。

 伝承でも聖女と結婚したのは聖剣を持った王子。
 なにも遠慮することなどないはずなのに。
 
「ドラゴン討伐のように挑戦なさればいいんですよ」
 目を細めて微笑む騎士団長に、ルイスは「ドラゴンの方がマシだ」と苦笑した。
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