異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!

45.結婚

 ルイスの手を取ってから、あっという間に半年がたった。

 ドラゴンを倒した英雄と聖女の結婚式。
 中に入れるのは王族と大臣だけだが、一目見ようと多くの貴族、街の人で教会の前は溢れかえった。

 国王陛下やルイスのお父さん達、もちろんキラキラ王子のレオナルドも参列してくれている。
 
 ルイスに腰を支えられながらゆっくり歩くバージンロード。
 まさか自分にこんな日が来るなんて想像していなかった。

 何と言われているのかわからないけれど、きっと「病める時も健やかなる時も」みたいなありがたい言葉だろう。
 教皇の後ろには大きな女神のステンドグラス。
 きれいな光が差し込んでいる。

『では、誓いの口づけを』
 教皇の言葉でルイスはミサキの顔を覗き込んだ。
 腰を支えられ、手が顔に添えられたミサキは、誓いのキスだとようやく察した。

 そうか、こっちの結婚式でもキスはあるんだ。
 ルイスと初めてのキス。

 あんなに毎日世話をしてくれて、ずっと一緒の部屋にいるのに、一度もキスをされたことがない。

 だから結婚はしてくれるけれど、別に私の事が好きなわけではないのだろう。
 もしかしたら最初で最後のキスかもしれない。

『ミサキ、好きだ』
 ルイスの唇がそっとミサキに触れる。

 え? こっちの世界の結婚式はキスが長いの?
 軽いキスで終わるのかと思ったら、意外にキスが続く。

「ミサキ、愛している。ずっと俺の側に」
 囁かれる言葉と熱いキスにクラクラしそうだ。

「……は?」
 愛している?
 ちょっと待って。
 何でルイスの言葉がわかるの?

 キスの途中でミサキの驚いた声が響く。

「は? って何だ。今度は何だ? 結婚したくないって言ってもダメだぞ。離さないからな」
 誓いの口づけの最中に何だと言うルイスは泣き出したミサキの顔を見て慌てた。

「そ、そんなに口づけが嫌だったのか? 悪い、もうしない。嫌がることはもうしないから側にいてくれ」
 ミサキの涙を指で拭きながら困った顔をするルイス。

「聖女は結婚式の段取りを知らなかったのか?」
「言葉がわからないので伝える手段がなく」
 国王陛下の疑問にディーがすぐ答え、教皇も事前に説明はしなかったと答えた。

「……ルイス、私のこと好きなの?」
「当たり前だろう。好きじゃなきゃ結婚なんて……」
 途中まで答えたところでルイスも「は?」と止まる。

 今、ミサキの言葉が分かった気がする。
 そんなことあり得るのだろうか?

 ルイスはミサキの黒い眼をジッと見つめた。
 
「ミサキ、好きだ。愛している」
 ルイスの言葉を聞き、嬉しそうに頷くミサキ。

「私も、ルイスが好き」
 泣きながら答えるミサキにルイスは人目も憚らず熱い口づけをした。
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