異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!

46. エピローグ

 英雄と聖女の絵本にはある言葉が追加された。

「聖女様にかけられた『言葉が通じない』という呪いは、王子様の口づけで解けました」
 少女たちの間で囁かれたウワサは、いつしか別の物語となり英雄の本の隣で売られるようになった。

「我慢せずにもっと早く口づけすれば良かった」
「教会の女神の前だったから効果があったんじゃない?」
 溜息をつくルイスを宥めるディー。

 あぁ、こういう感じの会話だったんだ。

「ミサキ! 今日も可愛いぞ」
「俺と結婚しよう」
「もうルイスと結婚しちゃったよ」
 笑いながら騎士達に答えるミサキの腰をルイスは引き寄せ、眉間にシワを寄せる。

「俺のだ」
「隊長、ズルいっす!」
 よく眉間にシワを寄せて不機嫌そうで怖そうだなと思っていたけれど、こんな会話だったんだ。

 やっぱり言葉がわからないと全然違う会話を想像してしまう。

「ミサキ、愛している」
「ふぁ!?」
 耳元で囁かれる言葉にミサキの顔が真っ赤になった。
 
「聖女様! 結婚式ステキでした」
 教会のエマは大号泣。
 あの時言えなかった「ありがとう」をやっと伝える事ができた。

 右ひじは少し曲がるように。
 全く動かなかった右手も少しだけ動くようになった。

「一生面倒を見るからこのままでも大丈夫だ」
「えぇ~、ルイスってこんな甘々だったの?」
「そうだよ」
 ミサキはレオナルド殿下が好きだからとウジウジしていたけれど、途中から我慢できなくて独占だったとディーがバラすと、騎士達はうんうんと頷いた。

「面倒見がよくて、優しいんだなって思ってた」
「父親みたいだって俺達は言ってた」
 ガイルの言葉に吹き出すミサキ。

「お前達、うるさい! 早く仕事しろ!」
「ドラゴン倒せる第二王子に護衛なんていらないっしょ」
 そう言いながら逃げて行くユーイ。

 あぁ、こんな感じだった。
 ミサキがくすくす笑っていると、ルイスの口づけが降ってくる。

「……幸せ」
「俺も幸せだ」

 手帳でスケジュールを確認したディーはそっと部屋から退室し、騎士達とのんびり休憩する。

「あ、ビルからもらったシカのツノの漢方薬、ルイに渡すの忘れた」
 男の滋養強壮の粉だ。

「隊長にはいらないっしょ」
 笑い合う騎士達。
 離宮はいつも楽しそうだと他の騎士団から羨ましがられ、憧れの職場となった。
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