異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!
『まだ洗濯が終わっていなくて』
 白いワンピースを干しながら、水に浸かっているワンピースをチラッと見るエマに神官は溜息をついた。

『聖女様、そんなことなさらなくて大丈夫です』
 神官は、洗ったワンピースを水ですすいでいるミサキの手を桶から出し、タオルで拭く。
 ミサキの手は冷たく、赤くなっていた。

『この方の手は女神の手。水仕事をさせるとは』
『すみません』
 神官はカゴに書かれた名前を確認し、押し付けた7人の名前を覚える。

『ここはこのままでいいので、すぐに礼拝に』
『はい。すぐ行きます』
 
 洗濯が途中だけれどいいのかな?
 ミサキはエマと神官に連れられ、昨日の礼拝堂へ行く。
 あ、仕事の時間だから洗濯は後にしなさいって事ね。

「おはようございます」
『待っていたよ、エマちゃん。今日は俺が1番!』
 エマと同じくらいの年齢に見える青年が人差し指を一本出した。
 
『チャドさん痛い所ありましたっけ?』
『ははは。俺は頭が悪いからさ、聖女様に治してもらおうと思って』
『頭は治りませんよ』
 周りからドッと笑いが起きる。

 頭?
 青年の頭は別に怪我などしていなさそうだけれど?
 ミサキが自分の頭を指差すと、エマも青年も周りの人達も、うんうんと頷いた。

 本当に頭なんだ。
 よくわからないまま青年の頭に手を10秒ほど置く。

『よっしゃー! これで頭が良くなったぞー』
『なってねぇよ』
 またドッと笑いが起き、みんな楽しそうだ。

『次は俺! 肩が上がらなくってさ』
 その場にしゃがんだ男性の肩をエマが指差すので、ミサキは肩に手を置いた。
 10秒ほどで手を離すと、両腕を上げて『すげぇー!』と叫ぶ男性。
 周りもどよめき、歓喜する。

 楽しそうに盛り上がる部屋の片隅に、マリーは舌打ちした。
 
 一人一人、ワイワイと盛り上がっていたせいか、今日はエマとミサキが一番最後になってしまった。
 途中から神官も付き、これ以上並ばないように制限まで。

 初日に比べるとかなりたくさんの贈り物を頂くことができた。
 少しは役に立てたかな……?
 ミサキは棚に入りきらなかった食材を見ながら微笑んだ。
< 42 / 131 >

この作品をシェア

pagetop