異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!
「しっかりしろ!」
「おい、止血はこれでいいのか?」
「5分くらいそのままで」
 痛みで唸る騎士の太ももをしっかり押さえながらルイスは頑張れと励ました。

 この草原は安全な草原だったはずだが、こんなところでハイエナと遭遇するなんて運が悪すぎる。
 しかも夜行性のハイエナが昼間に人を襲うとは。
 顎が強いヤツらに足が食いちぎられなかったのが不幸中の幸いだ。

 うめき声を上げるジョンにルイスが水を飲むかと尋ねる。
 ジョンは冷や汗をかきながら小さく首を横に振った。

『おい、こんなところでどうした?』
 ぼんやりした頭とふらふらの足取りでテントに近づくミサキに気づいた一人の騎士がミサキに駆け寄る。

『あの、水をください』
 お互いに言葉が通じない。

『とりあえず副隊長のところへ行こう』
 騎士はミサキを支えながらテントまで連れて行ってくれた。

『どうした?』
『ふらふら歩いてきました。迷子かもしれません。言葉も通じないので』
『……この子は教会の』
 見覚えのある少女にルイスの補佐ディーは目を見開く。

『ルイ、教会の子が』
『は? こんな所に』
 いるわけないだろうと言おうと振り向いたルイスは、だいぶ汚れて衰弱しきっている聖女を見て目を見開いた。

『聖女……』
 まさかあの教会からここまで歩いたというのか。
 林を抜けて?

 ミサキは意識が朦朧としたまま怪我人の横にへたり込んだ。
 血がついたタオルを押さえているルイスの大きな手の上にミサキの小さな手が乗る。

『おい、この手は何だ』
 言葉がわからないミサキは何も答えない。

 10秒ほど手を乗せたあと、グラッと倒れるミサキ。
 補佐官ディーは慌てて後ろから支えた。
< 54 / 131 >

この作品をシェア

pagetop