異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!
 着てきた服と買った服をお姉さんがカバンに綺麗に入れてくれた。
 支払いはルイスがしてくれる。
 カバンも当然のようにルイスが持ってくれた。

「ありがとう、ルイス」
 ミサキがあざとい角度でお礼を言うと、ルイスはミサキの頭をグリッと撫でる。
 まるで小さな男の子の頭を撫でるかのようだ。

『櫛はどこで買える?』
『斜め前の緑の看板の店』
 ルイスはお姉さんが指差した店へミサキを連れていく。
 鏡と櫛を買い、ミサキのカバンに入れた。

『ノートとペン!』
 これがあればもう少し言葉を覚えられるかもしれない。
 ミサキは手に持ったままどうやってルイスに頼もうか考えた。
 買ってという単語がわからないからだ。

『欲しいのか?』
 ヒョイとミサキの手から取り上げ支払いを済ませるルイス。

「ありがとう」
 今日一番嬉しそうな顔をするミサキをルイスは不思議そうに見つめた。
 
 次の店では寝る時用のラフな服を購入、その次の店では綺麗なタオルを買ってくれた。
 こんなにたくさん買ってもらったけれど、良いのかな?

 最後に行ったのは紅茶とケーキの店。

「おいしい」
 久しぶりの甘い物が嬉しすぎる!

『……甘いな』
 一緒にイチゴのケーキを食べる姿が似合わなさすぎてミサキは笑った。

『……笑った方がいいな』
 泣きそうな顔より良いとルイスが呟いてもミサキにはわからない。

 兄レオナルドの嫁になる娘。
 頭ではわかっているけれど目が離せない。
 こんな事は初めてだ。

 ワンピースを見せたら首を横に振った。
 買ったのは必要最低限。
 唯一、本人が欲しがったのはノートとペンだ。

 貴族の令嬢はドレスや宝石を欲しがり、冒険者の女は金を、街の娘は寵愛を欲しがった。
 
 ミサキはどれにも当てはまらない。
 兄レオナルドがいるので自分に媚びる必要はないのだろう。

 不思議な娘。
 聖女とはこういうものなのか。

 ルイスは甘酸っぱいイチゴを頬張るミサキを見ながら温かい紅茶を口に含んだ。
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