異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!
「へぇ。宿屋の店主が夜盗なら楽で良いね」
 鍵も開け放題だとディーが笑うと、逃げようとした店主は再び「ひっ!」と悲鳴を上げた。

 後ろには他の部屋から出てきた騎士達。
 店主の背中に剣を突きつけている。

「……酒を飲んだはずなのに!」
 なぜ起きている? と文句を言う店主にルイスは溜息をついた。
 
 やたらと強い酒が多いと思った。
 寝ている間に侵入しこっそり金品を奪い、また鍵を閉めて出ていくパターンのようだ。
 朝、鍵がかかっていれば酔った自分がどこかに置き忘れたかと思い、盗られたとは思わない。
 宿には責任がないのだ。

「もう一泊したいけれど、もちろんタダだよね?」
 剣を喉に突き付けながらニッコリ微笑むディーに店主の顔が引き攣る。

「食事も酒もサービスだよね?」
 盗みに入ろうとした現行犯だからねぇとディーが笑うと、勝ち目がないと思った店主は渋々頷いた。

 ディーは店主の手から全室の合鍵を取り上げると、騎士達に「明日は自由行動!」と宣言する。
 
「飲み食いも店主に言えば出てくるから」
 ね、店主。とディーが微笑むと、顔面蒼白の店主はガックリ項垂れた。

 翌朝、もう一日ここでゆっくりすると聞いたミサキは喜んだ。
 朝食を食べ、シャワーに行き、新しい服に着替えて櫛で髪を梳く。
 久しぶりのゆっくりした朝が嬉しい。

 パーカーやスニーカーが邪魔なので手紙と一緒にどこかに送るとジェスチャーされたミサキは頷いた。

『じゃ、ルイ。今日もミサキをお願いね』
 荷物を送ったり、やることがいっぱいあるのだとディーは出て行ってしまった。
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