異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!

28. 距離

 お昼ご飯も、そのあとの時間もずっとルイスは側で言葉を教えてくれた。
 聞こえたままの言葉をカタカナでノートに書いていく。

『楽しいか?』
 ルイスに聞かれたミサキはノートのページを捲った。
 どこかに書いた気がする言葉だ。

 3ページ前に戻ると書いてある。
 ルイスが聞いたのは「楽しい」だ。
 
「うん。楽しい」
 ミサキが答えるとルイスは嬉しそうに微笑んだ。

 やっぱり会話ができると楽しい!
 全部を覚えるのは無理だけれど、ノートに書いたおかげで言われたことがわかった。
 少しずつ覚えていけば、いつかスラスラ話せるかな?

「ノート、買う? 街、5」
 手で5を作りながらルイスが話す。

 次の街は5日後だけどもう一冊ノートを買っておくか? と聞いたのかな?
 
「買う、嬉しい」
 ノートを見ながらミサキが答えると、ルイスの手が差し伸べられた。
 手を繋いで街へ行き、ノートとペンを再び買ってもらう。

「ありがとう、ルイス」
 買ってもらったノートとペンを大事そうに抱えると、ルイスの青い眼が揺れた。

 こんなもので喜ぶなんて。
 いくらでも買ってやる。
 
 街を歩いていくと髪飾りを売っている露店の前でミサキの視線が動いた。
 ルイスが立ち止まると、ミサキは何でもないよと首を横に振る。

 ミサキはどれを見ていたのだろうか?
 花か? 蝶か?
 色はどれだ?

「これか?」
『えっ、これ以上買ってもらったらダメだから、買わなくていいよ』
 両手を左右に振り、ワタワタと慌てるミサキの頭にルイスが蝶をつける。

「……可愛いよ」
 支払いを終えたルイスはミサキの手を取ると、何事もなかったかのように街を歩きだした。

 聞き間違いじゃなかったら『可愛い』って言われた気がする。
 ミサキの顔は一気に真っ赤になった。
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