異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!
 パラパラ捲ると知らない文字がびっしり書かれている。
 こんなのを見てしまったら本当に違う世界から来たのだと実感する。
 
 平民だろうと思っていたが、こんなに文字が書けるのなら彼女の世界では身分は上の方だったのかもしれない。
 頭も悪くない。
 ノートがあるだけでこんなに話せるようになったのだから。

「ミサキ、OK!」
 スゴイと褒めるディー。
 ミサキは嬉しそうに微笑んだ。

 夕食の時間に食堂へ行くと、髪をアップにしたミサキに騎士達が群がる。

『隊長! 抜け駆けズルいっす』
『俺も贈りたかった』
『結婚しよう』
 酒を飲みながらワイワイ騒ぐ騎士達。

 まだまだ何と言っているかわからないけれど、いつか彼らともたくさん話せたらいいなとミサキは思った。

 夕食の後はまたすぐ眠たくなってしまう。
 早々とベッドに入ったミサキは今日もベッドの魅力にあっさり負けた。

「早っ」
 今日も早いねとディーが笑う。

「で? 相談って?」
 食堂からもらってきたワインを片手にディーが尋ねるとルイスは躊躇いながら話し始めた。

「……ミサキの世話を代わってくれ」
「可愛いから?」
 ワインを飲みながら、冗談を言ったつもりだったが無反応のルイスにディーは驚いた。

「えっ? マジな話?」
 ワイングラスをテーブルに置き、ルイスとミサキを交互に見る。

「レオの想い人だとわかっている。でも……」
 このままではいけないので距離を置きたいと言うルイスにディーは驚いた。

「あのさ、諦めないとダメなのか?」
「当たり前だろう。レオが」
「何で譲るの?」
 ディーの言葉に黙ってしまうルイス。
 ディーは再びワインに手を伸ばすと、飲むわけでもなくグラスを揺らした。
 
 ルイスはいつもそうだ。
 兄であるレオナルド殿下に遠慮して、いつも兄の後に選ぶ。
 勉強も出来るくせに兄より上にならないようにし、食べる物も着る物も兄が選ばなかった物。
 
 唯一、真剣に出来たのは兄がやらなかった剣術だけ。
 夢中で練習した結果、普通の騎士よりも強くなったルイスをうちで預かることになったのだ。
 ディーの家、騎士団長の家で。

「あのさ、もしミサキが伝承の通り聖女だったら聖剣を持っているルイと結婚じゃないの?」
 ワインを揺らしたまま話すディーの言葉にルイスの青い眼が揺れた。
< 82 / 131 >

この作品をシェア

pagetop