異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!

30. 伝承

「レオナルド様! ミサキ様の居場所がわかりました!」
 補佐官チャールズは、ルイスの補佐官ディーから届いた荷物と手紙を持ち、レオナルドの執務室に駆け込んだ。

「ミサキはどこに!」
「ルイス殿下と合流し、ドラゴン討伐に向かっています」
 補佐官チャールズはミサキが召喚時に着ていた服と靴、そしてディーからの手紙をレオナルドの前へ出した。

「いろいろありましたが、予定通り聖女が同行できて良かったです」
 あとはルイス殿下が聖剣でドラゴンを倒せば水が戻りますと喜ぶチャールズ。

 レオナルドはミサキの服を広げるとグッと拳を握った。

 初めて会った時、この服はこんなに汚れてはいなかった。
 この王宮から去り、教会を追い出され、林の中で苦労したのだろう。
 無事で良かったが、こんなに苦労させてしまった。
 自分の配慮が足りなかったばかりに。

「……レオナルド様?」
 補佐官チャールズが様子のおかしいレオナルドに声をかけると、ハッとしたレオナルドは顔をあげた。

「この服はナタリーに。できるだけきれいにするようにと」
「承知しました」
 洗った服と靴はミサキの部屋で保管するように。とレオナルドが指示を出す。

 補佐官ディーの手紙には、ガルバルド草原に入ってすぐの所でミサキに会ったと書かれていた。
 ハイエナに足を噛まれたジョンの手当てをしてくれたが、意識が朦朧とした状態だったと。
 おそらく教会から林を真っ直ぐ抜け、ずっと食べ物がない状態で小川の水を飲み林を抜けたのだろうと書かれていた。

 教会で顔を見ていたルイスのおかげで聖女だとわかり、そのまま連れていくことにしたが言葉がわからないので意思疎通が難しい。
 だが、騎士達ともうまくやっていると報告書には書いてあった。

 1つ目のアンベルの街でミサキの服と靴、鞄、その他必要な物を購入したが、ドレスや装飾品には興味がなく、欲しがらなかった。
 唯一、本人が買ってほしいと言ったのはノートとペンだったと書かれた報告書を見たレオナルドは「ノートとペン……」と呟いた。

「そろそろ2つ目のガーウィの街へ着く頃ですね」
 補佐官チャールズが手紙の日付を確認し日数を数える。

「無事に帰ってきてくれ」
 何度も報告書を読み返しながらレオナルドは祈るようにつぶやいた。
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