異世界で言葉が通じないなんてハードすぎます!

33. シカ

 夕方には熱が下がり、ルイスと食堂へ行ったミサキは心配してくれる騎士達にお礼を言った。
 翌朝は一日遅れで出発し山へ向かう。
 今まで通りルイスと手を繋いで歩いていくと3日目には手袋が必要な寒さになった。

「寒い?」
「大丈夫」
 夜は言葉を習ってから、寒さを凌ぐためルイスにくっついて眠る。
 甘え過ぎだとわかっているが、寒さには勝てなかった。

「ルイス、聞きたい」
「何を?」
「ルイス」
 ルイスの事を知りたいと言うと、ルイスは驚いた顔をした。

 ルイスは21歳。
 ディーとは5歳から一緒に剣の練習をした。
 りんごよりオレンジの方が良い。

 ミサキの語学力でわかったのはたったこれだけ。
 でもルイスの事が少しわかって嬉しかった。

 5日目の昼には洞窟に到着。
 洞窟の中は風が来ないので少し暖かい。

「ミサキ、飯」
「うん」
 一緒に作ろうとジョンに誘われたミサキはじゃがいもと人参を切ってスープに入れた。
 干し肉はユーイが切って鍋へ。

「すごい!」
『惚れた?』
 大根のカツラ剥きを披露したガイルが得意げに笑う。
 俺だってできるし! とみんなで盛り上がった結果、大根を切りすぎてディーに怒られた。

『偵察隊の情報ではこの洞窟から川沿いにあと5km』
『ここを拠点にドラゴンを探す』
『ミサキはここで留守番だな』
 騎士達は4人組2チーム。
 ルイス、ディー、ミサキはこの洞窟で待機だ。

 昼食後、騎士達は近所を散策。
 シカを担いで帰ってきたガイルにミサキは驚いた。

「ケガ」
「大丈夫、大丈夫!」
 ガイルの手の甲にシカのツノで引っ掻いたような傷を見つけたミサキはそっとガイルの手に触れる。
 一瞬でスッと消えるケガにガイルは目を見開いた。

『スッゲー! ミサキ、やっぱり俺と結婚しようぜ!』
 ジョン、ユーイ、クレイグも傷が消えた手を見て『俺も結婚してー!』と叫んだ。
 
 よくわからないけれど楽しそうだ。

 シカはすぐにお肉にされ、鍋に投入される。
 焼いて食べる部分を残し、あとの肉はまた干し肉に。
 ミサキは薄切り肉を並べるのを手伝った。

 隣では医師免許を持つ騎士ビルがシカのツノを粉にしている。
 
 あ、シカのツノ触ってみたい。

「待って!」
 ミサキが手を伸ばすと、慌てて医師免許を持ったビルがミサキを止めた。
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