瞳の向こうに
「観光ですか?」
館長らしき男性が英語で彼に話しかけた。
「ええ、探し物をしに……」
英語で返事をする人物にむかって館長は
「見つかるといいですね」
と言って微笑んだ。
「この絵は?」
「いいでしょう?
この澄んだ瞳が……なんとも魅力的で、吸い込まれそうになるくらいに美しい……。
ここを訪れた人は、必ずここで立ち止まるんですよ」
「この絵画は、これを描いた画家の代表作なんですよ」
「随分とお詳しいんですね。作者とお知り合いなの
ですか?」
「私の友人のお弟子さんなんですよ」
「そうでしたか……」
「この絵のモデルの瞳の奥には何が見えてるので
しょうね?」
「え?」
「いやね、私はこの絵を最初に見た時にそう感じたん
ですよ。
モデルの瞳の向こうに見えてるものがきっとあるんだろうなって……
あなたは、どう思いますか?」
「そう……ですね。今の私にはわかるような気がします」
「ほ……う。それは、初めての答えですね。
偶然にも今日その作者がここに来ていますので実際に聞いてみるものいいかもですね。では、私はこれで……」
館長は優しく微笑むと彼の前から歩き去った。
白壁に飾られた一枚の油絵の前に立ち、何かを懐かしむかのようにじっと見つめる彼。
すると、後ろから懐かしい声が聞こえて来た。
「その絵、気に入っていただけましたか?」
彼が振り向くと、ニコッと笑う彼女が立っていた。
「この絵、あの時描いてたヤツ……デッサン画じゃなかったの?」
「うん。最初はそうだったんだけど。こっちに来て、もう一度描いてみた。
ひとつ、ひとつ思い出しながら……どうかな?」
「うまく描けてるよ……って俺が言うセリフじゃ
ないけど」
と彼が微笑むと、
「久しぶり……元気だった?」
と彼女に聞いた。
「久しぶり。元気だったよ」
「頑張ったんだな」
「お陰様で……あなたも……映画観てるよ」
「へ~、そうなんだ。ありがとう」
二人は懐かしそうに互いを見つめ合った。
絵画の前に立つ二人……。
「俺、小さな夢が現実となって、そして大きな夢が叶った瞬間にその向こうに何をみるのだろうってずっと考えてたんだ」
「で、その答えは見つかったの?」
「ああ、今この絵を見た瞬間に……見つかった」
額縁に収められた一枚の油絵には……。
窓の向こうに微かに見える通り沿いのビルの断片を背景に、
頬杖をついた数年前の彼が描かれており、彼の澄んだ瞳がとても印象的である……。
繊細に描かれた彼の瞳には何かが映し出されているようにも見えた。
「俺の瞳の向こうには……
これから俺が新たに切り開いていく未来が
映し出されているんだよな……そうだろ?」
彼がそう呟くと、彼女は無言で頷いた。
「わざわざ、外国まで観に来てくれてありがとう」
「丁度、休みが取れたから、リフレッシュも兼ねて」
「そうか……これからも活躍応援してるね」
「ありがとう。そっちも頑張れよ。
日本で個展開催するんだろ?」
「え~っと、それは……」
「さっき、館長さんから聞いた」
「そうか。うん、ありがとう」
「じゃあ、ここで」
美術館の玄関で彼が彼女にそう告げた。
彼女は、彼の後姿を静かに見送る……。
突然、彼が振り向くと大きな声で叫んだ。
「俺の瞳の向こうにあるものがもう一つあったよ」
「え? 何?」
聞き返す彼女に彼が……
「それは、ミサ……君との未来……」
と言って微笑んだ。
「えっと……」
驚いた表情をする彼女にむかって彼が、
「このことは、絶対に秘密だからな」
「絶対に秘密?」
「ああ、これは君と俺とのふたりだけの秘密だ」
そう言うと、彼は彼女のもとに走り寄り
彼女を抱きしめた。
外国の田舎の美術館に飾られた一枚の油絵。
繊細に描かれた人物画の右下には、
2024.4.15 From misa to you
(わたしからあなたへ)と記載され、
題名には、『瞳の向こうに』と記されていた。
~ 瞳の向こうに 完 ~
館長らしき男性が英語で彼に話しかけた。
「ええ、探し物をしに……」
英語で返事をする人物にむかって館長は
「見つかるといいですね」
と言って微笑んだ。
「この絵は?」
「いいでしょう?
この澄んだ瞳が……なんとも魅力的で、吸い込まれそうになるくらいに美しい……。
ここを訪れた人は、必ずここで立ち止まるんですよ」
「この絵画は、これを描いた画家の代表作なんですよ」
「随分とお詳しいんですね。作者とお知り合いなの
ですか?」
「私の友人のお弟子さんなんですよ」
「そうでしたか……」
「この絵のモデルの瞳の奥には何が見えてるので
しょうね?」
「え?」
「いやね、私はこの絵を最初に見た時にそう感じたん
ですよ。
モデルの瞳の向こうに見えてるものがきっとあるんだろうなって……
あなたは、どう思いますか?」
「そう……ですね。今の私にはわかるような気がします」
「ほ……う。それは、初めての答えですね。
偶然にも今日その作者がここに来ていますので実際に聞いてみるものいいかもですね。では、私はこれで……」
館長は優しく微笑むと彼の前から歩き去った。
白壁に飾られた一枚の油絵の前に立ち、何かを懐かしむかのようにじっと見つめる彼。
すると、後ろから懐かしい声が聞こえて来た。
「その絵、気に入っていただけましたか?」
彼が振り向くと、ニコッと笑う彼女が立っていた。
「この絵、あの時描いてたヤツ……デッサン画じゃなかったの?」
「うん。最初はそうだったんだけど。こっちに来て、もう一度描いてみた。
ひとつ、ひとつ思い出しながら……どうかな?」
「うまく描けてるよ……って俺が言うセリフじゃ
ないけど」
と彼が微笑むと、
「久しぶり……元気だった?」
と彼女に聞いた。
「久しぶり。元気だったよ」
「頑張ったんだな」
「お陰様で……あなたも……映画観てるよ」
「へ~、そうなんだ。ありがとう」
二人は懐かしそうに互いを見つめ合った。
絵画の前に立つ二人……。
「俺、小さな夢が現実となって、そして大きな夢が叶った瞬間にその向こうに何をみるのだろうってずっと考えてたんだ」
「で、その答えは見つかったの?」
「ああ、今この絵を見た瞬間に……見つかった」
額縁に収められた一枚の油絵には……。
窓の向こうに微かに見える通り沿いのビルの断片を背景に、
頬杖をついた数年前の彼が描かれており、彼の澄んだ瞳がとても印象的である……。
繊細に描かれた彼の瞳には何かが映し出されているようにも見えた。
「俺の瞳の向こうには……
これから俺が新たに切り開いていく未来が
映し出されているんだよな……そうだろ?」
彼がそう呟くと、彼女は無言で頷いた。
「わざわざ、外国まで観に来てくれてありがとう」
「丁度、休みが取れたから、リフレッシュも兼ねて」
「そうか……これからも活躍応援してるね」
「ありがとう。そっちも頑張れよ。
日本で個展開催するんだろ?」
「え~っと、それは……」
「さっき、館長さんから聞いた」
「そうか。うん、ありがとう」
「じゃあ、ここで」
美術館の玄関で彼が彼女にそう告げた。
彼女は、彼の後姿を静かに見送る……。
突然、彼が振り向くと大きな声で叫んだ。
「俺の瞳の向こうにあるものがもう一つあったよ」
「え? 何?」
聞き返す彼女に彼が……
「それは、ミサ……君との未来……」
と言って微笑んだ。
「えっと……」
驚いた表情をする彼女にむかって彼が、
「このことは、絶対に秘密だからな」
「絶対に秘密?」
「ああ、これは君と俺とのふたりだけの秘密だ」
そう言うと、彼は彼女のもとに走り寄り
彼女を抱きしめた。
外国の田舎の美術館に飾られた一枚の油絵。
繊細に描かれた人物画の右下には、
2024.4.15 From misa to you
(わたしからあなたへ)と記載され、
題名には、『瞳の向こうに』と記されていた。
~ 瞳の向こうに 完 ~