甘い顔した君にはもう
転校生の名前は早美 弥生というらしい。
黒板に書かれた名前はいつか消えてしまうから、覚えようと紙に書いてみる。
綺麗な名前・・・。
チャイムが鳴り、案の定転校生の早美くんの周りにはいつしか人だかりができていた。
「ねえ〜〜〜今日の昼、食堂行かないの〜〜?」
後ろの席の恵奈が机にへばりつき、足をバタバタと動かす。
「ああごめん、私今日お弁当だから」
「わたし、お昼ないけど」
「いや、食堂行けばよくない?」
「もう、ちみはいつもちゅめたいなぁ」
「甘えないの、早く行ってきて。
売り切れちゃうから予約してきなよ」
「分かったよぅ」
そう言い、恵奈は渋々教室から出ていく。
私たちの空間はいつも通りなのに、左斜め後ろがやけに賑やかだ。
振り返るまでもなく、声が聞こえる。
「僕可愛いでしょっ?」
んな・・・!?
思わず振り返る私。
そこには、転校生、早美くんがとてつもなくあざといポーズをとり、周りの女の子たちの母性本能をくすぐっているではないか。
「きゃー!可愛いね弥生くんっ!」
「まじ天使!」
「お目目きゅるきゅるだねっ」
「このハイトーンの髪色が子犬みたいで、きゃわいい〜〜〜!」
ここはアイドルの握手会か!?
そうツッコミ入れざるを得ない状況に、先程まで鬱陶しがってしまっていた恵奈に早く帰ってきてくれと願うしかなかった。