甘い顔した君にはもう




「な、なにか・・・?」



失礼極まりない男子の横で
早美くんは困った顔して私を見ている。


見られている。


あの日以来、こんなにまっすぐ見つめられたのは
久しぶりで、簡単に胸がときめいてしまう。



「田辺くん、桜依ちゃんだよ。
大空、桜依ちゃんね」



転校して間もない早美くんでさえ
みんなの名前を覚えているっていうのに
なんだ、此奴は。


・・・と、言っておりますけれども
私も此奴の下の名前は知らない。


後ろの掲示板に集中し、
田辺という名前を探し出す。


あった。

失礼極まりない男の名前は田辺 隼(たなべ はやと)というらしい。


覚えたわ、覚えてやりましたわ。

なんて強気も今だけで・・・。



「はぁ?大空?
お前借り物競走だけは絶対ミスるなよ。
ミスったら◯す」



え、なになになんでそうなる?


田辺くんはそんなにも体育祭に力宿すタイプなんですか?


私のクラスにそんな人必要ないです!


心の中で泣き叫ぶ・・・が、届きやせず
田辺くんは私を睨み続ける。



「ちょっと田辺くん。
あんまり私に期待しないでちょうだい」


「はっ!?
期待してるわけじゃねぇし、逆だし逆」



顔を赤くして怒る田辺くんはキレキャラなんだわ、と脳内のメモ帳に田辺くん情報を埋め込む。



怒った田辺くんの横で早美くんは可愛く笑う。


「田辺くん、そんなに桜依ちゃんのこと心配?」


と、さっそく煽る早美くん。



「ちげぇよ、逆だよ逆」


「それさっきも言ったよ?」


「う、うるせぇ!
とにかく早美は放課後レッスンだからな!
サボったらまじ許さねぇ!

あと借り物競走、お前は・・・
ミスったら許さねぇ!!」



「だから私は大空っていう名前があ・・・」



ツッコんでも無駄で、
田辺くんは私に背を向け
早美くんにガン飛ばしを始めていた。



え、なにこの光景。



「おもしろくなってきたねぇ」


「恵奈!やっと起きた」


「寝てないよぅ、起きてたよぅ」



体育祭、無事に終えることができるだろうか。
なんだか不安が倍になった気がする。




 
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