甘い顔した君にはもう



放課後、恵奈の支度を待っているとき、窓から見える校庭を何気なく見る。



あ、いる。


早美くん、体操着だ。

いつもと違う雰囲気で私はそれだけでもキュンキュンしている。


早美くんのオタク達は、今頃外に出てフェンス越しに
黄色い声援を送っているのだろうか。


いや、多分違う。
オタク達は早美くんのかっこよさにまだ気づいていないもの。


彼女たちは早美くんの可愛さで群がっている。


きっと帰っている。



「ぅおっやっぱりリレー、練習してんだぁ」



恵奈が手を止めて私の肩に顎を乗せてだるそうに話し出す。



「ちょっと、何してるのよ。
準備できたなら早く行こ」



「どこ行くの?」



「帰るだけよ」



「見に行かないの?」



「何言ってんの、邪魔になるじゃない」



「見たくないの?」



「何が言いたいのか分からないわ。
早く帰らないと。今日は課題が多いんだから」



それに、借り物競争のお題の予習もしたい。



私たちは下駄箱まで無言で歩く。
恵奈との仲は、それほど心地の良い存在同士、ということだ。



ちなみに・・・
本当は早美くんの練習姿を見ていたかった。



でも、なんとなく恵奈にはまだ話せていないから
もし、顔に出さない私が不意に恋する乙女の顔をしていたら
きっと恵奈は驚くだろう。



だからまだ推しているということについて、恵奈に話す予定はない。




 
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