甘い顔した君にはもう




外に出ると私はあることに気が付いてしまう。



「ねえ恵奈、目、いい?」



「うん、視力どっちもいいよ」



「あそこにいるのって・・・」



私は恵奈に分かるように指をさす。


でも、なんだか失礼だと思って
すぐに手をおろす。



「んーーー、見事さんだねん」



「やっぱそうか・・・」



なにをしているのだろうか。


フェンス越しになにか見守っているような・・・。

誰か待っているのだろうか。


もしかして・・・


早美くんを見ているのだろうか。


なぜだか胸が痛いような、モヤッとするような・・・。



「ごめん恵奈、ちょっと」


「へいへい、先帰るよ~ん」



恵奈の言葉さえ、この時は届きやしなかった。

それくらいざわつきが止まらなくて
身体が勝手に早美くんに近づきたくて
存在を確認したくて我慢ができない。


秘密を共有したくらいで
なにを舞い上がっているのだ。


なんて思うけれど、もどかしくて仕方がないのだ。



見事さんの後ろまで着いた時
嫌な予感はやっぱり当たっていて。



見事さんの視線の先は
紛れもなく早美くんだ。


私は見事さんに気づかれないように
静かに離れ、ほんの少し先のベンチが並ぶあたりに移動する。



ここの方が校庭にいる人たちがよく見える。


リレーの練習をしている彼らは特にピンポイントに見えるのだ。


見事さんに教えるべきだろうか、と考えるが
よくない想像をし、今は何もしないと決める。



「早美くん・・・」



早美くんは田辺くんと一緒にウォーミングアップを始めていた。


腕を上げてストレッチをしている時でも目が離せない。

体操着に隠れていたお腹がチラッと見えてしまう早美くん。

私はアイドルに向けて送る黄色い声援を
今すぐにでも早美くんに向けて叫びたい。



なーんて、気持ち悪いこと考えている私にどうか罰を・・・。



「はぁ~走る姿、体育祭前に見ちゃっていいのかな~」
なんて、でかい独り言も人気が少ないここなら恥ずかしさもなく本音が言えて爽快だ。



だけど、よく見える位置にいれても
早美くん達にはバレないように、と心掛けるべきだと思った。



嫌われるようなことはしたくない。





 
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