甘い顔した君にはもう




____体育祭当日



自分の教室から椅子を校庭に運ぶ
この一大イベントの一つをやりとげようと必死の中


後ろから声がする。


早美くんの可愛く優しい柔らかい声。



「田辺くんさあ、バトン落とさないでよ?」


「当たり前だろ、馬鹿ッ」



リレーの練習をした翌日から
早美くんと田辺くんはどんどん仲良くなっていた。



今は田辺くんの方から早美くんの近くにいて
オタク達の居場所はないも同然。



田辺くん。
初めは早美くんに意地悪する嫌な奴かと
思ったけど、きっと愛情を間違えている
ただの変な奴だった。



これもある意味ギャップだが
ピンとこない。



まあ、私への対応も相変わらずで



「おい借り物競走。
こけたらまじ許さんからな」


「はいはい、分かったわよ」


「はいは一回なんだよ馬鹿かよ!」


「しつこい男は嫌われるわよ」


「は!?うるせぇ余計なお世話だ。
椅子持とうか?」


「切り替えがおかしいって。
もう田辺くんのせいで余計に椅子が重たいわ」


「なんで俺のせいなんだよ!
なあ早美からも言ってくれ」



「・・・・」
早美くんは黙り込んだまま椅子を運ぶことに
集中しているみたいだ。



「早美・・・?」
田辺くんがもう一度尋ねる。



「ん?」



「あ、いや
大空にガツンと早美からも言えって・・・」



「んーん、なんか邪魔できないよ」



早美くんが何も言わずに私の隣に並ぶ。


早美くんが隣に並ぶことで
身長差が目に見えて分かって
なんだか嬉しい。



それに今日、早美くんの髪型がいつもと違う・・・。


いつもは前髪ありなのに、
今日はポンパドールスタイルで
男らしさ全開だ。


可愛いキャラ、貫けるのだろうか。
と、心配になるほどカッコいい。



私も今日は気合を入れて長い黒髪をポニーテールにしてきた。


気合を入れたとて、運動神経は変わらない。
そんなことは重々承知の上だ。


少しでも印象を変えて
早美くんに見てもらいたいなとか
そんな欲が、昨晩出てきてしまって
朝は気合を入れて頑張った。



早美くんの方にチラッと視線を向ける。


と、同時に早美くんも私を見下ろすように
流した目で見つめるのだ。


でも、すぐに表情を変えて

「ん、え、びっくりした・・・」

なんて言って動揺している。



私じゃなくて、早美くんが動揺した。


私も遅れて「ごめん」と動揺する。


なに、この感じ・・・。



 
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