甘い顔した君にはもう



「そういや友達は?
あの、綱引きの子」



「恵奈のこと?」



「いや分からん。
若菜って人」



田辺くんはきっと天然。
だけど見た目はヤンキー軍団にいそうな、
金の太いネックレスがとてもよく似合う人。


早美くんの逆、といえばいいのだろうか。


近寄りがたい田辺くん。
実は天然で可愛らしい。


この紹介文が1番しっくりくる。




「それは恵奈だね。

休みだよ、前から参加しないとか
言ってたから予定通りよ」




そう、恵奈は本当に体育祭を休んだ。


本当は一緒にお弁当食べたり
クラスメイトを応援したりしたかったけど
こればかりは我儘言っていられない。


休みたい時に休む。


恵奈はそういう子なのだ。


側から見たら自由で我儘だと思われても仕方がない。
でもきっとこれは恵奈自身が強いからできること。


自分のことをよく分かっていて、
それを堂々と行動できる。


これがどんなに凄いことなのか。


人に迷惑をかけることは一切していないから許されること。


その区別も恵奈は昔からできているし、
だからこそずっと一緒にいたいと思える。




「てことはお前ぼっちか」



「そんなこと言わないで。
桜依ちゃんは僕といるから」



「え?」



いや、本当に「え?」だ。



今一体何が起きた?


いつも通りの可愛い声。
優しい心遣い。


キュッキュッと歩く音を立てながら
一斉に階段を降りるクラスメイトの中で
私は立ち止まりそうになる。  


それなのに、早美くんの表情は
何も変わらない。

何も変わらないってことは
特に深い意味はないということ。


危ない危ない。
もっと沼にハマって抜け出せなくなるところだった。



「早美くん気を遣わせちゃったわね」


「えぇ、なんで?」


「私は大丈夫よ。
1人は慣れているわ?」



それに早美くんと一緒にいたら
周りの視線が痛いほど集まる。


これはどうしても避けたかった。




 

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