甘い顔した君にはもう




「だめだ痛〜い」なんて呟いて
誰にも届きやしない体育館の裏を
陰にし、私は避難中。



とりあえず、選手宣誓と準備運動は抜けよう。



そうすれば借り物競争までに少しは痛みがおさまっているはずだ。



校長がマイク越しで話す声がここまで響いて聞こえてくる。



こういう雰囲気、昔からソワソワして好きじゃない。



どんな展開が待ち受けるのか、想像できない未来など怖くて仕方がない。

勝敗が決まる体育祭は特に苦手。

私は弱虫だ。



足首を確認するため、靴下をめくる。


「げっ」と声に出してしまうほど、赤紫に腫れていた。


これじゃあ、いくら休んだって引かない。


競技は辞退して、みんなに謝って代役を頼もう。


それしかない。



____その時


ジャリッと砂利の音が近づく。


まさか、心配した先生が私を探しにきたのだろうか。


それとも早美くんだったり・・・
と期待に胸を膨らませる気持ちと
逆に迷惑をかけてしまうだけだよねという気持ち。




「あれ、ここにいたんだ」


バッと顔を上げる。


私は言葉が出なかった。

想像していた2人ではなくて・・・


「見事さん・・・」


ふわふわした見た目とは裏腹に
腕組みして仁王立ちで私を見つめる見事さんの姿が目に入る。


「なにしてんの?まさかサボり?」


「違うの、実はね・・・ぃたッ!!!」


「え何、怪我してるとかやめてよ」


「・・・ごめん、怪我しちゃって」


「はあ?あんた借り物競争じゃん」


「そうね、でも・・・代役を探すことにして」


「それ本気で言ってんの?」


「ええ、でも自分で探すから大丈夫よ」


「ならお願いがあるの」


「お願い・・・?」



と、見事さんは両手で私の手を強く握りしめた。



 


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