甘い顔した君にはもう
「もう恵奈ってばちゃんと座りなさいよっ!」
私には関係ないことだし、これから先接点なんかできるわけないんだから、変なこと考えるのはこれくらいにしておこう。
授業が始まる前のこの時間、早美くんの周りは静かになることはなかった。
そうやって、気にしないようにと決意したばっかりなのに・・・
「はーーーい!はいはい静かに!!」
授業が始まる5分前、お調子者の学級委員長が教壇にたって、大きく跳ね上がる。
「何事ぉ?」
眠そうにしている恵奈が重たい目を擦りながら私の肩を揺する。
「知らない、次移動教室だよ。行こ」
そう言い、椅子を引くと学級委員長に「話聞けって!」と呼び止められる。
「・・・」
ここで無視をしてしまえば、きっとクラスのみんなから冷ややかな目で見られること間違いなしよね。
ここは空気を呼んで、仕方なく椅子に座る。
「本日放課後!転校生の早美くんの歓迎も含めて、カラオケで親睦会をやりたいと思いまーーーーす!!!!!」
教壇からの大きな掛け声に賛同する、クラスのみんなの盛り上がる声。
少し勘づいていた私にとって、この流れは最悪なものだった。
「恵奈、私行かないから」
「言うと思ったーー。桜依ってばこういうのいつも参加したがらないもんねぇ」
「当たり前でしょ、苦手なんだから」
「ほんとは仲良くしたいくせに・・・」
「ん?なんか言った?」
「別にぃ」
唇をとがらせ、ふてくされる恵奈に私は「ごめんごめん」と言い、頭をなでる。
「捕まえた」と手首を掴む恵奈。
「へ?」
「おっ大空さんも若菜さんも参加ね」
紙に名前を書き始める学級委員長。
「へ?い、いや手挙げてないわよ!挙げられただけで、え、ちょっと恵奈!!!」
「いぇーーーい」
ピースサインをし、笑ってごまかす恵奈に私は言い返す言葉が見つからない。