甘い顔した君にはもう



「桜依ちゃんが嫌じゃなければ
あそこ(テント)までおんぶするよ?」



「そっそれは早美くん
可愛いからかけ離れてる行動だよ・・・
それに私もちょっと恥ずかしいから遠慮するね」


田辺くんに聞かれないように
最小限の小さな声で伝える。


「なあ、なにしてん
早く行けよ馬鹿、
そんなとこいる間に悪化すんだろ馬鹿」


田辺くんに背後から声をかけられ
私はギョッとした顔で振り返る。


「なんだその顔
お前もそんな顔すんだな」


「もう、私のことはいいから早く並びなよ」


「はあ?ひどいなお前
俺がおぶってやろうか?秒だぞ」


そう田辺くんが言うと
早美くんが間に入り
田辺くんをジッと見つめた後
いつもの笑顔で


「いやっいいよ田辺くん
僕がいるから心配しないで」



なんて言うから田辺くんも私も目が点だ。



「お、おう」


「ね、桜依ちゃん早く行こ?
1人だとなにかと障害が多いし危ないよ。
それとも僕じゃ頼りない?」


「えっと・・・」


私を見る早美くん。


すると、こちらに近づき
《大丈夫、肩組むだけだから》と耳元で囁かれる。



耳が、かなり、熱い。



今度はもう私の意見など聞かずに
「ほら」と私を呼ぶ。


声の方へ流れるように近づき
腕を早美くんの肩に乗せ、歩き出す。



「この前と逆だ」と言って笑い出す早美くん。

早美くんの肩が震え出して
人間味をようやく感じることができる。



こんな可愛くてかっこいい人
幻のように思えて仕方がなかった。



だけどこんな近くに存在している。


そんな風に分かるようになった今
私はこの先、早美くんに
真っ直ぐに接することなどできないだろう。



真剣に歩く早美くんは紛れもなくカッコいい男の子だ。




 
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